切り絵日和

作家ステートメント


私は切り絵を通して、奈良という土地に息づく記憶と、人々の中に残る時間を形にしたいと考えています。

奈良に生まれ育ち、仏師であった祖父のもとで幼少期から手仕事や工芸に親しみました。祖父が木を刻み仏を彫ったように、私は紙を刻み、一枚の作品を生み出しています。

作品に描かれる鳥、花、蝶、魚は、単なる自然の姿ではありません。

幼い頃に見た風景。

祖父母と過ごした時間。

土地に根付く文化や歴史。

人から人へ受け継がれてきた記憶。

それらが折り重なり、一つの形として現れたものです。

切り絵は、一度刃を入れると元には戻りません。

その不可逆性は、人の人生や時間の流れに似ています。

私は一本の線を残しながら紙を刻むことで、失われていく記憶や語られなくなった物語を掬い上げ、現代の景色として再構築したいと考えています。

近年は花鳥風月を主題とした作品に加え、正倉院宝物や奈良の歴史文化を題材とした制作にも取り組んでいます。

文化財そのものを再現するのではなく、その背後にある美意識や精神性を読み解き、現代の切り絵表現として再解釈することを試みています。

私にとって制作とは、過去を保存するための行為ではありません。

過去から受け継いだものを現在に生かし、未来へ手渡すための行為です。

作品を通して、鑑賞者が自身の記憶や人生の風景と向き合い、新たな物語を見出すこと。

そして奈良という土地に息づく文化や記憶を、現代の表現として未来へ繋いでいくこと。

それが私の制作の根底にある願いです。

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