
正倉院の宝物を見ていると、
私はいつも少し不思議な気持ちになります。
約千三百年前につくられたものなのに、
どこか新しく感じるからです。
中でも、私が特に惹かれるのが「螺鈿」という技法です。
螺鈿とは、
夜光貝や鮑(あわび)などの貝殻の内側にある真珠層を、
驚くほど薄く削り、
木や漆の上にはめ込んで装飾する工芸技法です。
光の角度によって、
青く、紫に、時には緑色にも表情を変えるその姿は、
まるで光そのものを作品に閉じ込めたように見えます。
私は工芸品を見る時、
まず細工に目が行きます。
「どうやって作ったんだろう。」
その一言に尽きます。
今のような精密な機械も、
電動工具もない時代。
それでも人々は、
小さな貝殻を削り、
一片ずつ形を整え、
木地へとはめ込み、
自然の光を作品の中に残そうとしました。
その姿を想像すると、
作品というより、
職人たちの憧れや執念を見ているような気持ちになります。
正倉院の宝物は、
聖武天皇の遺愛品を中心に、
光明皇后によって東大寺へ納められたと伝えられています。
そこには、
日本だけでなく、
シルクロードを渡ってきた様々な文化が息づいています。
遠い南の海で育った貝。
異国から運ばれた紫檀や香木。
西方の文化とともに伝わった葡萄唐草文様。
天平の人々は、
そうした遠い国々の美しさを受け入れ、
自分たちの感性で新しい工芸へと育てていきました。
だから私は、
螺鈿という技法を、
単なる装飾とは思っていません。
それは、
人が自然の中にある小さな美しさを見つけ、
永く残したいと願った記憶なのだと思っています。
今、私は、
正倉院に伝わる
「楓蘇芳染螺鈿槽琵琶(かえですおうぞめらでんのそうのびわ)」
に着想を得て、
新しい作品を制作しています。
楓の木に、
蘇芳で染められた深い色彩。
そして、
静かに光を宿す螺鈿。
もちろん、
千三百年前の宝物をそのまま写すことはできません。
それは、
ありのままの姿が、
きっと一番美しいからです。
けれど、
もし古代の職人たちが、
今この時代に生きていたなら。
どんな素材を選び、
どんな光を作品に宿しただろう。
そんなことを考えながら、
私は一本一本、線を描いています。
古いものは、
ただ過去に置き去りにされたものではなく、
今を生きる私たちの中にも、
静かに息づいている。
螺鈿を見つめていると、
私はそんな「古代の記憶」を感じるのです。
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※ 螺鈿(らでん)は、
夜光貝や鮑などの真珠層を薄く加工し、
木地や漆器にはめ込む装飾技法です。
正倉院宝物にも数多く見ることができ、
天平文化を代表する工芸技法の一つとして現在まで受け継がれています。














