楓蘇芳染螺鈿槽琵琶|刻の囀り<石賀直之オフィシャルウェブサイト>

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楓蘇芳染螺鈿槽琵琶

楓蘇芳染螺鈿槽琵琶
(かえですおうぞめらでんのそうのびわ)

正倉院には、
数え切れないほど美しい宝物があります。

その中でも、
私が特別に心を惹かれたものがあります。

「楓蘇芳染螺鈿槽琵琶」。

初めて見た時、
私はその名前よりも先に、
その姿に目を奪われました。

美しい曲線。

静かに光る螺鈿。

花や鳥を思わせる文様。

どこを見ても、
人の手で作られたとは思えないほど、
繊細で美しく感じたのを覚えています。

私は工芸品を見る時、

「どうやって作ったんだろう。」

と考えてしまいます。

そして、
この琵琶を見た時も、
真っ先にそう思いました。

今のような機械もない時代に、

貝を削り、
木を削り、
色を重ね、

一本一本、
丁寧に文様を作り上げていった。

その時間を想像すると、
作品というよりも、
職人たちの祈りや憧れを見ているような気持ちになります。

私は、
この宝物をそのまま写したいとは思いませんでした。

ありのままの姿が、
きっと一番美しいからです。

けれど、

もし、
この琵琶を作った職人たちが、
今の時代に生きていたなら。

どんな素材を選び、
どんな光を作品に宿しただろう。

そんなことを考えるようになりました。

私は切り絵を使って、
その問いに自分なりの答えを探しています。

紙という、
とても身近で、
とても儚い素材。

けれど、
光が当たると影が生まれ、
背景が変わると景色も変わる。

一枚の紙の中に、
無限の表情を作ることができます。

それは、
どこか螺鈿が光を映し込む姿にも似ているような気がしています。

私は今、
この琵琶に着想を得た作品を制作しています。

古代の宝物を、
私というフィルターを通して、
もう一度、新しい景色として描くために。

もし、
千三百年前の職人が、
ある日突然、
私の工房を訪ねてきたとしたら。

私はきっと、
何も説明しません。

ただ、
今作っているこの琵琶を、
静かに差し出すと思います。

そして、

その人が、
どんな顔をして、
どんな言葉を口にするのか。

私は、
ただそれを聞いてみたいのです。



※ 「楓蘇芳染螺鈿槽琵琶」は、
正倉院に伝わる天平時代の宝物です。

楓材を用い、
蘇芳で染められた木地に、
螺鈿などの高度な工芸技法が施されています。

現在も、
天平文化を象徴する工芸作品の一つとして、
多くの人々を魅了し続けています。

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