紫檀
祖父の工房には、
いつも木屑の香りがしていました。
温かくて、
少し甘くて、
どこか落ち着く匂い。
私はその中で、
小さな木片を集めて遊んでいました。
だからでしょうか。
今でも、
工芸品を見る時は、
つい木に目がいってしまいます。
正倉院の宝物にも、
様々な木材が使われています。
その中でも、
特に美しいと感じるものの一つが、
「紫檀(したん)」です。
私は最初、
名前の通り、
紫色の木なのだと思っていました。
けれど実際には、
深い赤褐色をした、
とても重く硬い木です。
磨かれることで、
少しずつ艶を増し、
時間とともに、
静かな光を宿していきます。
私は、
この木がとても好きです。
派手ではないのに、
ずっと見ていると、
少しずつ美しさが見えてくる。
そんなところが、
どこか人にも似ている気がします。
紫檀は、
東南アジアやインドなど、
遠い国々から運ばれてきた貴重な木材でした。
飛行機もない時代に、
長い海を越え、
奈良まで届けられた一本の木。
その木を見つめながら、
昔の職人たちは、
何を作ろうと考えたのでしょう。
私は、
工芸というものは、
木を削り、
形を作る技術だけではなく、
その素材が持つ美しさを見つけ、
引き出してあげる仕事なのだと思っています。
祖父が仏像を彫っていた姿を思い出す時も、
私は、
木と向き合っているというより、
木の中に眠っている何かを、
静かに探しているように感じていました。
だから、
正倉院の宝物を見ていても、
「これは紫檀で作られている。」
と知ると、
私はまず、
遠い国で育った一本の木が、
千三百年という時間を越えて、
今ここにあることに驚いてしまいます。
そして、
その木に触れ、
削り、
磨き、
命を吹き込んだ職人たちに、
少しだけ親しみを感じます。
私は切り絵を作っています。
紙という、
木から生まれた素材を使って。
もしかすると、
祖父が木を彫り、
古代の職人たちが紫檀を削ったように、
私は紙の中にある景色を、
少しだけ外へ連れ出しているだけなのかもしれません。
⸻
※ 紫檀は、
主にインドや東南アジアを原産とする銘木で、
古くから高級家具や工芸品、楽器などに用いられてきました。
非常に硬く耐久性に優れ、
深い赤褐色と美しい艶を持つことから、
正倉院宝物にも使われている貴重な木材の一つです。
いつも木屑の香りがしていました。
温かくて、
少し甘くて、
どこか落ち着く匂い。
私はその中で、
小さな木片を集めて遊んでいました。
だからでしょうか。
今でも、
工芸品を見る時は、
つい木に目がいってしまいます。
正倉院の宝物にも、
様々な木材が使われています。
その中でも、
特に美しいと感じるものの一つが、
「紫檀(したん)」です。
私は最初、
名前の通り、
紫色の木なのだと思っていました。
けれど実際には、
深い赤褐色をした、
とても重く硬い木です。
磨かれることで、
少しずつ艶を増し、
時間とともに、
静かな光を宿していきます。
私は、
この木がとても好きです。
派手ではないのに、
ずっと見ていると、
少しずつ美しさが見えてくる。
そんなところが、
どこか人にも似ている気がします。
紫檀は、
東南アジアやインドなど、
遠い国々から運ばれてきた貴重な木材でした。
飛行機もない時代に、
長い海を越え、
奈良まで届けられた一本の木。
その木を見つめながら、
昔の職人たちは、
何を作ろうと考えたのでしょう。
私は、
工芸というものは、
木を削り、
形を作る技術だけではなく、
その素材が持つ美しさを見つけ、
引き出してあげる仕事なのだと思っています。
祖父が仏像を彫っていた姿を思い出す時も、
私は、
木と向き合っているというより、
木の中に眠っている何かを、
静かに探しているように感じていました。
だから、
正倉院の宝物を見ていても、
「これは紫檀で作られている。」
と知ると、
私はまず、
遠い国で育った一本の木が、
千三百年という時間を越えて、
今ここにあることに驚いてしまいます。
そして、
その木に触れ、
削り、
磨き、
命を吹き込んだ職人たちに、
少しだけ親しみを感じます。
私は切り絵を作っています。
紙という、
木から生まれた素材を使って。
もしかすると、
祖父が木を彫り、
古代の職人たちが紫檀を削ったように、
私は紙の中にある景色を、
少しだけ外へ連れ出しているだけなのかもしれません。
⸻
※ 紫檀は、
主にインドや東南アジアを原産とする銘木で、
古くから高級家具や工芸品、楽器などに用いられてきました。
非常に硬く耐久性に優れ、
深い赤褐色と美しい艶を持つことから、
正倉院宝物にも使われている貴重な木材の一つです。



